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ディランLA TIMESレヴュー:タイタニックの悲劇を綴った大作「テンペスト」曲解剖!

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$HIGH-HOPES管理人のひとりごと(洋楽ロック)

ロサンゼルス・タイムズ紙レヴュー(8月31日付)
http://www.latimes.com/entertainment/music/posts/la-et-ms-bob-dylan-tempest-review-titanic-20120831,0,6880760.story より

ボブ・ディラン「テンペスト」に描かれたタイタニック

9月11日に発売されるボブ・ディランの新作『テンペスト』は既にそのタイトル曲が注目を集めている。タイタニック号の沈没という、100年前に起こった悲惨な海難事故に彼なりの解釈を与えたこの曲はロックの時代に最も名高いソングライターの手による最もたぐいまれな楽曲の一つといえよう。

このアルバムの他の楽曲では、ミネソタ州ヒビングで育った吟遊詩人のディランが1962年のデビュー・アルバム『ボブ・ディラン』の発売50周年にあたる今年取り組むことにした、目まぐるしいほど多岐に渡る題材を背景に、彼とその率いる選りすぐりのツアー・バンドがまたもやルーツ・ミュージックのグルーヴを掘り下げている。シンプルなコードを1、2つ用いているだけの曲もある。

一方サビなしの45節にわたる「テンペスト」ではアイリッシュ・ケルティック・ワルツの雰囲気の中、ディランが割れた陶器のコップのような声でこの語り草になった物語を時系列で語っている。やることなすことファンや評論家の憶測を呼ぶディランのこと、この不運な客船の乗客や乗員がなすすべなく沈んでいったことを知っていた彼がこの曲をサビなしで書いたのが意識的なものだったのか、はたまた無意識にこうなったのかに思いを馳せずにはいられない。

ディランが「レオ」という名前を投入したことは広く知られている。ジェームズ・キャメロン監督の手がけた1997年の大ヒット映画の主人公を演じた彼のことだが、筆者は2度目にこの曲を聴くまでは、ケイト・ウィンスレットの演じたローズにまで最初の節で敬意が表されていることに気づかなかった。

西の方の町の上に
見事な朧月が昇った
彼女はとてもとても悲しい物語を聞かせてくれた
沈没した巨大な船の話


ディランは「タイタニック」の物語に彼ならではのひねりを利かせ、ただその事実を淡々と振り返るのとは違った深い響きを持たせているだけでなく、古い時代を祝福しているのだそれはその日の一大ニュースから悲劇の歌が生まれるということが私たちの世界では日常茶飯事であるということだった。

ヘンリー・バーの1918年のヒット曲「ジャスト・ア・ベイビーズ・プレイヤー・アット・トワイライト(フォー・ハー・ダディ・オーヴァー・ゼア)」や、アメリカン・カルテットの1917年の曲「オーヴァー・ゼア」、アイルランド出身のテナー歌手、ジョン・マコーマックの1915年の曲「イッツ・ロング・ウェイ・トゥ・ティパラリー」など、第1次世界大戦中に生まれた曲の中には、20世紀2度目の10年における最大のヒット曲となったものもある。

タイタニック号の物語は、その沈没後数日のうちに音楽化されていった。音楽学者のA・E・パーキンスの1922年の論文にはこのように記されている。「1912年4月14日日曜日、タイタニック号が沈没した。次の日曜日には列車の中で、盲目の牧師がその惨事について書いたバラード曲を売っていた。タイトルは「ディドゥント・ザット・シップ・ゴー・ダウン?」(あの船は沈んだのではなかったか)。また、「タイタニック(ハズバンズ・アンド・ワイヴズ)」(夫婦たち)、別名「イット・ワズ・サッド・ホェン・ザット・グレイト・シップ・ウェント・ダウン」(あの大きな船が沈んだときは悲しかった)はコンテンポラリー・フォークの名曲となり、キャンプ用の歌曲集によく掲載されている。

ディラン自身博士号レベルの音楽学者であり、毎週1回放送されていた(訳注:2006-2009年)衛星ラジオ番組『テーマ・タイム・ラジオ・アワー』でも音楽への情熱を見せ付けていた。

2節目では物語が単なる死の惨劇を超越し、神話の領域にまで入り込む

4月14日の出来事
船は波間を進み行き
明日に向かって出港していった
予言された黄金時代へと


そして3節目では、ディランが魅力的なミステリーと死の不吉な予感を投入する。

夜空は星の光が眩しく輝き
大海原はくっきりとして視界も良好だった
暗がりの中を進み行き
約束された時は近づいていた
「約束された時」とは?
一体誰が何のためにそのような時を約束したというのだろうか。


やがてこの曲には見張り人が登場するが、この男はその後曲が終わるまでにあと3回再登場する。ディランは彼が仕事中に居眠りしている様子まで、さりげなく、なおかつひねりを利かせて描写している。

舞踏室でみんながぐるぐる回って踊っている時
見張り人は横になって夢を見ていた
彼が見ていたのは
タイタニック号が水の底へと沈んで行く夢


そしてキャメロンの映画に登場する創作上の要素へのそれとない言及により、事実が芸術を模倣するのである。

レオはスケッチブックを取り出した
しょっちゅう彼は描きたくてたまらない気持ちに襲われた
彼は目を閉じ、そして描いた
心の中に浮かび上がる情景を


ディランが描く主題のほぼすべてがそうであるように、この主題は2つ以上の意味を持つ。タイタニックの事故により失われた命と同様に悲惨なこの物語は深く心に響く。人間の傲慢さや、外洋船の物語につきものの国家に対するアナロジーなど、より複雑な事柄に触れているからである。

大騒ぎの気配が彼の耳に伝わる
何やら良からぬ響き
彼の内なる心が伝えていた
ここに長くは立っていられないことを


「内なる心」は外なる心を示唆しており、この文脈では心の内側に変化が起こり始めていることを示唆している。そしてディランはやはり、この世で起こった惨事をスピリチュアルな観点から眺め、しかも不吉なほどにスピリチュアルな姿勢を持っているのだ

船が沈んで行き
宇宙がぱっくりとその口を開く
上の方で激しい轟き
天使たちは脇によけてそっぽをむいた


歌詞には氷山も救命ボートも出てこないものの、
彼の言葉は現場に置かれた高画質カメラよりも克明にその光景を描いている

乗客たちが飛ばされていた
後ろに前に、遠くまで勢いよく
わけのわからないことを叫び、
手を宙に舞わせ、
転がり続ける乗客たち
どんどん力をなくして行くばかり


彼は船が北大西洋の凍てつく海に沈んでいく中で目にした卑怯な行為、勇気ある行為、恐怖、苦渋の犠牲を描いてゆく

母親と娘たちが
階段を駆け下りて
凍てつく水の中に飛び込む
愛や憐れみの祈りに包まれ


(中略)

ジム・ダンディが微笑んだ
彼はまったく泳げなかった
手足の不自由な小さな子供の姿が目に入り
彼はその子に席を譲った


彼がとらえたのは、何が起こっているのかに気づいたタイタニック号の船長が恐らく感じたであろう圧倒的な無力さである。

舵輪の前に跪いた
船長はすでに虫の息
彼の上には、そして彼のすぐそばには
五万トンの鉄の塊


ディランは彼にとってのソングライティングにおける最大の師ウッディ・ガスリーのように、他人の手に掛かれば単に死んだ者、生き残った者、遠くから眺めていた者らの事実に過ぎない事柄から、より多岐に渡る真実を掘り起こしている

死神がその仕事を終えた時
永眠した者の数は1600人にもなった
善人、悪人、金持ち、貧しい人
美しい人たち、最良の人たち
波止場でみんなは待っていた
彼らは必死で理解しようとしていた
しかし理解しようがない
神の手が下す審判は


デビューから半世紀を経た今、ボブ・ディランのキャリアは絶対的最高潮にある。そしてこの記事はたった1曲のことを書いているに過ぎないのだ。その他「ロール・オン・ジョン」ではジョン・レノンの死に感動的かつ遠まわしな祈りを捧げ、心地よくダークな殺人劇のバラード「ティン・エンジェル」を作り「デューケイン・ホイッスル」という陽気でブルージーで比喩に満ちた列車の旅でアルバムの幕を開けている。

伝説?とんでもない!Still Rolling
ロック最重要アーティスト、ボブ・ディラン71歳。デビュー50周年に解き放つ正真正銘全曲書き下ろしの通算35作目のオリジナル・ニュー・アルバム!

BOB DYLAN “TEMPEST”|ボブ・ディラン『テンペスト』


●CD商品情報
2012年9月26日発売予定
日本盤解説:菅野ヘッケル 対訳:中川五郎
SICP-3664 ¥2,520 通常盤
SICP-3663 ¥2,800 初回生産限定盤
初回のみスペシャル・ブックレット付(ファン垂涎!世界各国の超レアな雑誌の表紙を集めた60ページにも渡るブックレット!)
$HIGH-HOPES管理人のひとりごと(洋楽ロック)

●配信商品情報
9月5日先行試聴、予約開始。9月12日発売
http://itunes.apple.com/jp/preorder/tempest/id544472560
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●1st single「デューケイン・ホイッスル」ビデオ公開!
http://www.youtube.com/watch?v=mns9VeRguys

●[ボブ・ディラン『テンペスト』特設サイト]
http://www.sonymusic.co.jp/bobdylan/


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