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Channel: HIGH-HOPES(洋楽ロック)
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DYLAN LIVE REPORT「アメリカーナラーマ:フェスティヴァル・オブ・ミュージック」

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ブートレッグ・シリーズ第10集『アナザー・セルフ・ポートレイト』の発売を控えるボブ・ディラン(海外8/28 日本は9/18になりました)。菅野ヘッケルさんによるディランのライヴレポートです!


ボブ・ディランの「アメリカーナラーマ:フェスティヴァル・オブ・ミュージック」を見た。
菅野ヘッケル
2013年7月30日、ニューヨークにて


ボブ・ディランの夏のネヴァー・エンディング・ツアーは、野外の会場を中心に回るのが恒例になっている。今年は「アメリカーナラーマ(アメリカーナ音楽大博覧会」)、サブタイトルに「フェスティヴァル・オブ・ミュージック」と名付け、6月26日から8月4日までアメリカ&カナダを回った。言い換えれば移動型の、あるいは巡回形式のフェスティヴァルというわけだ。ディラン、ウィルコ、マイ・モーニング・ジャケットの3組がメインの出演者で、オープニングアクトをツアー前半はボブ・ウィアー、中盤はリチャード・トンプソン、後半はライアン・ギンガムがつとめた。

春のツアーからチャーリー・セクストンが抜けてデューク・ロビラード(『タイム・アウト・オブ・マインド』にも参加しているベテランで何枚も自己名義のCDをリリースしている)が新たに参加したり、ディランのコンサートの代名詞でもあった日替わりセットリストがほぼ固定セットリストとなったりしていたので、これは見逃せないと7月後半にアメリカ東部を中心に見てきた。予定では7回見るつもりでチケットも購入していたが、残念ながらあまりの悪天候、移動に時間がかかりすぎるなど、いろいろなことがあって実際には4回しか見なかった。4組すべてを見ると、6時間近い長丁場の野外フェスティヴァルなので、かなり疲れる。若い頃なら、多少の無理はしてでも7回すべてを見たはずだが……

というわけで、具体的には7月19日コネティカット州ブリッジポート、23日メリーランド州コロンビア、26日ニュージャージー州ホーボーケン、27日ニューヨーク州ジョーンズビーチの4カ所で見た。ブリッジポートの会場は当初は野球場の予定だったが悪天候が予想されるという理由で室内競技場に会場が変更になった。コロンビアの会場はメリーウェザー・ポスト・パヴィリオンという森のなかにあるすばらしい野外劇場で後方は芝生席。ホーボーケンの会場はピア・A・パークというハドソン川岸に隣接する芝生の公園(空き地)ですべてGA席。ジョーンズビーチ・シアターはロックファンならだれでも知っている有名な豪華な野外劇場だ。いずれの会場も、公共交通機関を利用して簡単に行けるので、レンタカーを借りなくてもすむ。旅行者には好都合だ。

インターネットのおかげで、禁止されているはずの写真、ビデオ、オーディエンスレコーディングなどが出回るので、かつほどの新鮮な衝撃は感じられなくなってしまっているが、それでも雰囲気は生で見ないとわからない。デューク・ロビラードのプレイを生で見たかったのだが、ツアーの途中、6月30日のナッシュヴィルの公演を最後に突然バンドを脱退してしまい、チャーリー・セクストンがふたたびもどってきた。しかし7月15日のトロント公演からはカナダ人のコリン・リンデンがチャーリーと代わった。これでメンバーが固定されるのかと思ったが、26日と27日はチャーリーが三たびもどってきた。理由はわからないがロビラードの脱退があまりに突然だったので、チャーリーにはキャンセルできないべつの仕事が入っているのだろう。そのためリンデンは控えのギタリストとして、同行しているようだ。秋のヨーロッパ・ツアーはだれになるのかな? 残りはトニー・ガーニエを中心にスチュ・キンボール、ドニー・ヘロン、ジョージ・リセリと不動のメンバーだ。ベースのトニーは1989年から24年間ディランのバックをつとめている。すごいことだ。多少の変動はあったが、ディランのセットは次の15曲、95分だ。

1. Things Have Changed
2. Love Sick
3. High Water (For Charley Patton)
4. Soon After Midnight
5. Early Roman Kings
6. Tangled Up In Blue
7. Duquesne Whistle
8. She Belongs To Me
9. Beyond Here Lies Nothin'
10. A Hard Rain's A-Gonna Fall
11. Blind Willie McTell
12. Simple Twist Of Fate
13. Summer Days / Thunder On The Mountain
14. All Along The Watchtower
(encore)
15. Ballad Of A Thin Man / Blowin' In The Wind

9時30分、ステージが暗転し、左手からキンボールがアコースティックギターを弾きながら登場する。暗闇のなかで彼がコードをかき鳴らしている間に、残りのメンバーが右手から、最後にボブが帽子を手に持って登場する。それぞれが位置に着くと、ステージの照明がつけられる。といっても、まばゆい明るさはない。街灯のようなスタンド照明が6本、ステージ両サイド、カーテンのそばに巨大なランタンのようなものが置かれ、中で炎が揺れている。本物の火のように見えたが、危険はないのだろうか。

ボブは歌っているときは帽子をかぶっていない。やや長めのカーリーヘア、逆光に浮かぶシルエットを見ていると、1965-66年のブリティッシュツアーのときの姿を思い出させる。かなりシェイプアップしたようだ。とても72歳には見えない。あいかわらず、ボブは一言も発しない。メンバー紹介さえしなくなった。例外は、19日のブリッジポートでジェフ・トゥイーディ(ウィルコ)とジム・ジェイムス(マイ・モーニング・ジャケット)のふたりを呼び入れレヴァレンド・ゲイリー・デイヴィスの「レット・ユア・ライト・シャイン・オン・ミー」を歌ったときと、26日のホーボーケンでジェフとジム、さらにピーター・ウルフ(J・ガイルズ・バンド)を呼び入れてザ・バンドの『ザ・ウェイト」を歌ったときだけだ。このときだけは、ゲストの名前を紹介した。また、よく理解できなかったが短いジョークもしゃべった。ピーター・ウルフは60年代初期のグリニッチヴィレッジ時代の仲間のひとりで、週末にジャイアンツ・スタジアムでおこなわれるボン・ジョヴィのコンサートのオープニングをつとめるためにニューヨークにいたようだ。「ザ・ウェイト」ほどアメリカーナにふさわしい曲はない。ボブ、ジェフ、ジム、ピーターの順でリードヴォーカルをとり、コーラスではとニー・ガーニエも加わった。もちろん観客は最初から最後まで大声で合唱した。

27日のジョーンズビーチは、マイ・モーニング・ジャケットに代わって2番手にベックがドラムレスバンドで登場した。ジョーンズビーチはすべて指定席で、ぼくの席は最前列のほぼ真ん中、やや右よりという特等席だった。前に遮るものは何もない。ディランの顔の表情まで見える。6時間座っていても、苦痛は感じない。昨年の秋と比較して、ボブのヴォーカルは確実によくなっている。ひきがえるが押しつぶされたような「がなり声」や吠えるような「だみ声」は消えていた。右手にマイクを持ち、左手を水平にのばし、両膝をかがめる得意の決まりポーズを何度も繰り返す。ときにはスタンドマイクを両手で持って、斜めに倒してエルヴィスを連想させるすがたで歌う。ぼくの大好きな「ブラインド・ウィリー・マクテル」では終わりかなと思わせておいて、また続けるという、ストップ&スタートを3度も繰り返す。

昨年までは、コンサートを見に行ってもボブが次に何を歌うのかに関心が向いていた。ところが固定セットリストになってからは、ボブがどのように歌うかに集中するようになった。これは大きな変化だ。「ブルーにこんがらがって」はいまも歌詞に手が加え続けられているし、ライヴでもっとも多く歌っている「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」も、昨年とはちがったアレンジで歌われた。ジミ・ヘンドリックスのカバーによって、激しい軽快なロック曲として定着しているが、『ジン・ウェズリー・ハーディング』におさめられたオリジナルはちがう。現在のアレンジは、オリジナルが持っていた預言性と不気味さを感じさせる。

フェスティヴァルでは、ほかのミュージシャンとの共演がつきものだが、ボブは前述のように2回をのぞいてだれとも共演しなかった。積極的だったのはウィルコたちだ。ホーボーケンでは、ウォレン・ヘインズが参加したし、イアン・ハンターも登場して「すべての若き野郎ども」を歌った。観客も大合唱する。この曲がよく知られているんだなと思った。ぼくはレコード会社時代にモット・ザ・フープルのA&Rだったことがあり、All The Young Dudeの邦題を「すべてに若き野郎ども」とつけた張本人だったので、感激もひとしおだった。イアン・ハンターはレコーディング契約のオーディションでディランのアルバム『時代は変わる』を丸ごと歌ったというほどのディラン・ファンなので、ウィルコだけでなくボブのステージにも加わってほしかった。

フェスティヴァルにつきもののパーティにもボブは参加しない。あいかわらずステージを終えるとそのままの衣装でバスに乗り込み、次の公演地に移動する。28日のカムデンの公演を終えたボブは、1時間後にはフィラデルフィア空港からプライベートジェットでデンヴァーに向かった。また、フェスティヴァルではボブがトリをつとめているが、サウンドチェックは順番が逆になる。つまりディラン・バンドが真っ先にサウンドチェックをおこなう。そのため、いままではボブもサウンドチェックで歌っていたが、今回はボブは参加しないようだ。固定セットリストになったので、その必要性が薄まったのかもしれない。なにしろ、ボブ・バンドのサウンドチェックは午後1時で、本番は夜9時半、その間半日以上もの空き時間ができる。いくら散歩好きのボブであっても、真っ昼間からぶらつくというわけにいかないだろう。

ディラン以外のアーティストについて、すこしふれておこう。ぼくの好みから言えば、ライアン・ギンガム、ベック、ウィルコ、マイ・モーニング・ジャケットの順となった。ライアンはどことなくジョン・メレンキャンプを連想させるロック色の濃い力強いシンガーソングライター。ジェフ・ブリッジ主演の映画『クレイジー・ハート』の主題歌をつくりオスカーとグラミーを受賞している。ちなみにこの映画でブリッジズは落ちぶれていくカントリーシンガーの役を演じているが、自らのCDを発売したりライヴ活動をおこなったりしている。とにかく、ライアン・ギンガムは注目しておいた方がよさそうだ。ベックは3人のバックミュージシャンにドラムマシーンという編成だった。1時間強のステージで、ロック、ブルース、カントリー、フォーク、テクノまで多彩なジャンルを聞かせてくれた。「アイム・ア・ルーザー」のころの少年のようなイメージしか持っていなかったので、改めて年を取ったことに驚いた。ただ、非凡な才能はいまも輝いていた。

ウィルコは好きな面と嫌い面の両方を持ち合わせたバンドだ。フォークやカントリー色の濃いルーツミュージックを歌っているときはいいが、突然大音響のノイズを発してアヴァンギャルドな一面を披露する。これはいただけない。それでも幅広いジャンルをこなすバンドなので、フェスティヴァルにはぴったりだ。前述のホーボーケン以外では、ジョーンズビーチでベック、ショーン・レノン、チボ・マットを招いて共演した。マイ・モーニング・ジャケットは映画『アイム・ノット・ゼア』のカーニヴァルの場面で顔を白く塗って「ゴーイン・トゥ・アカプルコ」をステージで歌っていたバンドだ。基本はルーツミュージックかもしれないが、とにかく大音量のバンドだった。ちなみにマーチャンダイズ売り場では耳栓も売っていた。また、ギタリストはまるでヘッドバンガーのように激しく頭をふったり。飛び跳ねたり、ヴォーカルのジムは途中でマントを羽織って歌う演出を見せたり、ついていけない一面もあった。

大音量と言えば、本来、ボブ・ディランに当てはめられた形容詞だったのに。マンチェスターのコンサートで「ユダ!(裏切り者)」と野次られたあと、「プレイ・ファッキング・ラウド」とバンドに告げて「ライク・ア・ローリング・ストーン」を歌い始める場面に象徴される1966年のツアーもそれまでの常識を超える大音量だった。1978年初来日の初日、2月20日は武道館史上最大の音量だった。何人もの観客が大音量に戸惑ったのを覚えている。また、2008年5月最終週にカナダのニューファウンドランド州セントジョンズでディランとレナード・コーエンがコンサートをおこなうという奇跡の5日間(ぼくも見に行っていた)があったが、24日ボブの誕生日のコンサートを見たコーエンは「年寄りには大音量すぎたので耳栓をして楽しんだ。いいコンサートだった」とコメントを残している。このようにディランのコンサートは大音量がつきものだったが、最近はそうでもなくなった。歓迎すべきことなのか。

こうして僕の「アメリカーナラーマ」の旅は終わった。次は10月10日、オスロからスタートするヨーロッパ・ツアーだ。ぼくはヨーロッパに一度も行ったことがないし、いままでは行きたいとも思わなかったので、あまり関心を持たなかったが、今年のツアーは11月26、27、28日にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで終了する予定だ。1966年5月以来、約半世紀ぶりにロイヤル・アルバート・ホールでコンサートをおこなうというので、行こうかどうしようか考えていたところ、チケットは発売当日に完売してしまったらしい。迷いは禁物、即、決断すればよかった。

それにしても、ディラン・ファンは大変だ。夏の終わりには『ブートレッグ・シリーズ第10集:アナザー・セルフ・ポートレイト』が発売されるし、『ブートレッグ・シリーズ第11集:コンプリート・ブラッド・オン・ザ・トラックス』も控えている。さらに以前からうわさになっていたCD40枚組ボックスセットも年内実現に向けて企画が進められているという。もちろん、今年もうわさだけで終わってしまいそうだが来日公演も期待したい。『ボブ・ディラン自伝第2巻』の執筆も進んでいるという。あいかわらずディラン関連本の出版も続いている。絵本『イフ・ドッグズ・ラン・フリー』や画集も出る。デヴィド・ダルトン著『ボブ・ディランという男』の日本語版も秋には出版されるはずだ。



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