【ブルース・スプリングスティーン『ザ・ライジング』20周年記念:2002年アズベリー・パーク紀行】
第4回目
Greetings from ASBURY PARK,N.J. Summer 2002
取材・文/安川達也
●7月7日 日曜日
朝5時。全米3大ネットのひとつNBCは、7月30日朝のブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンドのアズベリー・パークからの生放送ライヴ番組の宣伝を繰り返し放送している。日本に帰る支度をしているあいだだけでもう5回は聴いた。荷造りしながら、なぜ彼はアルバム『ザ・ライジング』の宣伝をスタジオからではなく、わざわざこの街から出演するのかを考えていた。ソングライターとしての感性を磨き、ミュージシャンとしての術を知った街。もっとも自分が素直になれる仲間との面々と出逢った街。かつてステージに上がる前にバディ・ホリーを演奏することで自分のロックンロールへの誠実さを保ってくれると発言していたが、いまの彼にはアズベリー・パークこそが自身を失わないでいられる場所なのだろう。
2002年夏。52歳。ブルース・スプリングスティーンはデビュー30周年を迎える。
「ブルースを今朝、テレビのCMで見ましたよ。本当に有名な人なんですね。結局その方とはお会いできたんですか?」
「いいえ。会えませんでした。でも、この街は間違いなくブルース・スプリングスティーンの息吹きでいっぱいでしたよ」
「……そうですか残念でしたね」
「また来ますから。それじゃ、パクさん。JFK空港までお願いします」
(続く)
●ザ・ライジング The Rising
2002年作品。盟友Eストリート・バンドとの'84年『ボーン・イン・ザUSA』以来18年振りとなるオリジナル新作。9.11にまつわる「歌」を真正面から取り上げてはいるが、愛国心を鼓舞するものでは全くない。愛する者を失った人たちの喪失感、悲しみ、絶望、傷ついた人々へのいたわり、救い、祈り、励まし、そして希望を託している。全米1位記録。
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